菊戴 鳥 京都 死亡

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京都 きんじ鳥

菊戴

敷居から吊り下げられた繍眼籠をじっと見ていた。青磁色の地面に投げかけた四角い籠の影に羽ばたきのぱさぱさな音が引かれてしまった。
おじいちゃんの飼鳥の菊戴は、丁度掌に載せる小っちゃいな体に部屋の隅々まで響き渡る美声を詰め込んでいるなんて摩訶不思議だと思いながら、淀んでいる空気に樹雨のサーサーと消え入る音のように聞きとった上、他の雑音が差し込む余地はない気持ちになった。頭のてっぺんに菊の花をつけるみたいな黄色い斑紋を涙の凝っていた平べったい結晶のように覗かせ、中学生の私の混沌している心を擦ったり刺したりして、この量れない重みで私が撓ってしまった。
そっと手を伸ばして籠を開けてみた。
鼓膜をくすぐった鳥足の乱れるステップが弾けて、日暮れの光を掻き回した。窓辺に薄い水の染みが残ってしまった。
おじいちゃんにさんざん叱られることはなかったが、家を出て五分ぐらい歩くと実りがたくさん付いたコットンツリーの蔭に菊戴の硬直した体を発見した。心臓がぱくぱく怖がらせ、視線だけがなかなか逸らさなかった。棉の飛び散ったアスファルトで畳んでしまった羽の艶がもう衰え、チイーチイーと可憐なさえずりの糸が黒色のくちばしに絡んでいた。手を触れてみると、冷めていた体温がさーと私の中に溶けていた。丁度風がかすめていて、綿が鼠色の細雪のように静かに降り注いた。
これは澄明な初夏の空との距離、でしょうか。