小さな涙が一つ

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小さな涙が一つ


 サヨナラを言わず、あなたのことなど見向きもしないふり、首を垂れたまま外に出てしまった。
 二月の下旬、寒気がまだ猛烈、日暮れの光の中にブルブル身を震わせた。不意に、冷たいしずくが鼻の先にポンと落ち、小雨が降り始めた。
 急ぎで三十三間堂まで来られ、軒下に雨宿りしながら、どこかの川の底に淀んでいるような、お経をあげる声が身に染みた。砂利道が踏まれた音。記念写真を撮った音。きゃちゃきゃちゃ。突然の風に運ばれた枯れ葉が、一回転二回転、地面を擦り、カタカタ、カタカタ、涙が零れ落ちた。